新品種開発
みかん研究所には、4ヘクタールもの畑があります。
「みかん研究所の目的は2つ。ひとつは、生産現場の農家さんのために栽培技術の開発。つまり柑橘をよりたくさん、よりおいしいものをどう作るかの研究です。
もうひとつは新しい柑橘の品種を作りだすことです。」
「どうぞ。ここはね、新しい柑橘の保育園です」
え?保育園?
「はい。新しい品種を作るためのね。
花が咲く時期にお母さんになる品種のめしべにお父さんになる品種の花粉をとってきて交配してあげるんです。すると冬に実がなる。その実に種が入っていると “お子さんが生まれた” ということになるんです」
「ここにあるのは、その種から育てて1〜2歳になったとこですね。なので保育園(笑)」
なるほど! これを大切に育てていくわけですね。
(お父さんとなった木とお母さんになった木が記されている)
「ひとつの果実のなかに複数の種があると、ひとつひとつ個性が違う。人間でいえば同じ両親から生まれた兄弟でも一人一人個性が違うように。
ですので原則としてはとれた種は全部まいて育てます。1年間で1,000粒くらいになります。」
え、全部まくんですか? それも1,000粒!?
(みかん研究所は多種多様な柑橘の宝庫。まるで桃源郷!)
「はい。すごいでしょう? それでこの状態で2〜3年育てたところで接ぎ木します。保育園から小学校へあげるんです」
「接ぎ木というのは、もともとあるミカンの木の枝を切って、皮のところをはいで木質との間の形成層に新種の柑橘を差すんです」
え?それだけで養分がいくんですか?
「はい。差し込んでテープで固定するんです。1本の木に複数の新種を接ぎ木します。大きな木だと20本くらい接ぎ木できたりするんですよ。こっちの枝には伊予柑、こっちにオレンジ、こっちにすだち、みたいにね。柑橘であれば種が違っていても大丈夫なんですよ」
へ〜、そんなことが!まるで夢のような木です。
「この状態で2〜3年すると実がなるんです。今の技術だと、実をつけたものを調べないと特徴が分からないんです。交配してから初めて実をつけるまで5〜6年かかります」
「いよいよ実がついたら、調べます。形はいいけど、食べるとまずいとか酸っぱいとか、いろいろあります。皮が簡単に手でむけて食べられるかどうかも重要なポイント」
聞けば聞くほどチェック項目は多く、まるでみかん大学の難関試験のよう。
(やっぱりたくさん実をつけなくちゃ、ね)
味の1次試験が合格すれば、今度は1本まるまるその木にするように接ぎ木するんです。たくさん実をつけるか、とか育てやすいか、とか。農家さんの立場になって試験をします。それをクリアすると最終試験へと…。 合格、つまり品種登録までには交配から15〜20年かかるんですよ」
みかん研究所が品種として確立させた “甘平”。 これも16年の歳月がかかりました。
「愛媛県では新種の開発を40年し続けています。1年に1,000本ですから、4万本やってきた計算になりますね。でも品種として確立したのは、8つだけなんです」
え、たったの8つ!?
(一房が大きくてジューシーな甘平)
(温州みかんの良さを最大限伸ばしたようなおいしさに感激!)
「愛媛県は温州みかんの生産量では和歌山県に抜かれてしまった。でも柑橘類のトータルの生産量も種類の多さも堂々の日本一です。これは誇りだし、これからも守っていきます」
“おいしい柑橘” にかけるすさまじい努力と高い目標。
日本最大の産地のすごみに、ただただ感心です。
機能があって、歴史があって、そして未来がある。
でも、なによりも素晴らしいのはとびきり「おいしい」こと!
さぁ、あなたも頬張ってみませんか?
昭和8年に設置された試験場。温州みかんをはじめ愛媛県の柑橘類研究の中核施設。育種・栽培研究だけにとどまらず、新品種の開発も精力的に行う。
みかん研究所発祥の柑橘は、現在市場で高い評価を受けるなどまさにヒットメーカー。